『進撃の巨人』を一度読み終えた後、もう一度最初から読み直すと、全く違う物語に見えてくることをご存知でしょうか?
「あの時のあの表情は、そういう意味だったのか……」 「このセリフ、実はあのアクシデントを予言していたのか!」
そんな驚きが至る所に散りばめられています。今回は、物語の根幹に関わる重要な伏線をいくつかのカテゴリーに分けて紐解いていきましょう。
第1話「二千年後の君へ」に隠された最大の謎
物語の冒頭、第1話のタイトルが「二千年後の君へ」であることは有名です。このタイトルが何を意味するのかは、物語の終盤(第122話)まで明かされませんでした。
始祖ユミルの叫び
第122話のタイトルは「二千年前の君から」。ここで、第1話のタイトルが「未来から過去へのメッセージ」ではなく、「過去の始祖ユミルから、二千年後のエレンへの呼びかけ」であったことが判明します。
- 伏線の内容: 第1話でエレンが見た「長い夢」。目覚めた時に涙を流していた理由。
- 回収の瞬間: エレンが「道」を通じて始祖ユミルと接触し、彼女が二千年間、自分を解放してくれる「誰か」を待っていたことを悟るシーン。
この伏線が回収された瞬間、読者は「この物語は最初から最後までプロットが完璧に組み上げられていたのだ」と、諫山先生の構成力に戦慄することになりました。
ライナーとベルトルトの正体を示唆する「不自然な言動」
『進撃の巨人』中盤の最大の衝撃といえば、ライナーとベルトルトが「鎧の巨人」と「超大型巨人」であったことが発覚するシーンです。実は、彼らの正体については初期から大量のヒントが隠されていました。
ウトガルド城での「ニシン」の缶詰
最も有名なのは、ウトガルド城での一幕です。ユミルが「ニシン」と書かれた缶詰を見つけますが、ライナーはそれを見て「お前……この文字が読めるのか?」と驚愕します。
- 真相: 壁の中の世界に海魚である「ニシン」は存在せず、その文字は壁外の言語(マーレの言葉)でした。
- 伏線: この時点で、ユミルとライナーが「壁の外から来た人間」であることが確定していたのです。
「戦士」という言葉の使い分け
ライナーは自分たちのことを「兵士」ではなく、時折「戦士」と呼びます。
- エレンたち訓練兵が目指すのは「壁を守る兵士」。
- ライナーたちが自称するのは「故郷から使命を帯びてきた戦士」。
この言葉の微妙な違和感が、彼らの二重人格的な苦悩や、潜入工作員としての正体に直結していました。
アニメ版の演出に隠された「未来の記憶」
アニメ版『進撃の巨人』でも、原作にない、あるいは原作を補完する形での伏線が多数存在します。
EDテーマ「夕暮れの鳥」の衝撃
Season 2のエンディングテーマ「夕暮れの鳥」(神聖かまってちゃん)の映像には、物語の核心に触れる描写が多数描かれていました。
- ユミルの民の王によるカニバリズム(始祖ユミルの肉を食べる娘たち)
- 巨人の大群が海を渡る「地鳴らし」を彷彿とさせる光景
これらは放送当時、原作でもまだ描かれていない内容でした。原作者からの情報提供に基づいた演出であり、アニメを毎週見ていた視聴者は、知らず知らずのうちに最終盤のネタバレを見ていたことになります。
エレンの「いってらっしゃい」
第1話の冒頭、エレンの夢の中でミカサが短髪姿で「いってらっしゃい、エレン」と言うシーンがあります。
- 伏線: 当時のミカサは長髪であり、この短い髪のミカサは存在しませんでした。
- 回収: これは最終回、エレンの命を奪う直前のミカサの姿でした。
エレンが持っていた「進撃の巨人」の能力(未来の継承者の記憶を覗き見る力)により、彼は物語の開始時点で自分の死の瞬間を見ていたのです。
「進撃の巨人」というタイトルの本当の意味
作品タイトルそのものに伏線が仕込まれているというのも、本作の驚くべき点です。
ずっと「巨人が進撃してくる物語」だと思われていましたが、第88話にてエレン・クルーガーの口から、
「その巨人はいついかなる時代においても、自由を求めて進み続けた。自由のために戦った。名は…進撃の巨人」
と語られます。
- 真相: タイトルは「名詞」ではなく、エレンが持つ「巨人の個体名」だったのです。
- 特性: 「進撃の巨人」の固有能力は「未来の継承者の記憶を見ること」。
この事実が判明したことで、物語の見え方が一変しました。エレンがなぜあそこまで自由を求めたのか、なぜ過酷な道を選んだのか。それは「未来の記憶」に縛られ、その運命に向かって「進み続ける」しかなかったから、という悲劇的な側面が浮き彫りになります。
小さな描写が大きな意味を持つ:その他の驚愕伏線
サシャの「盗んだ肉」
第4話でサシャが上官の食糧庫から肉を盗んでくるシーン。「土地を奪還すればまた牛も羊も増えますから」と笑う彼女の姿は、後のマーレ編でガビに撃たれた際の最期の言葉「肉……」へと繋がります。彼女にとって肉は「奪われた自由と平穏」の象徴だったのです。
鏡に向かって「戦え、戦え」
エレンが独房で鏡に向かって「戦え」と呟くシーン。ハンジに「何と戦っているの?」とからかわれますが、実はエレンは「戦わなければ勝てない(ミカサを守れない)」という自分自身への暗示、あるいは過去や未来の継承者へのメッセージを送っていたと考えられます。
結末|すべての点がつながる瞬間
『進撃の巨人』の伏線回収がこれほどまでに評価されるのは、単なる「パズル合わせ」で終わらないからです。
伏線が回収されるたびに、キャラクターの苦悩が深まり、物語の悲劇性が増し、読者の倫理観を揺さぶります。エレンが母親を死なせる結果を招いたという衝撃の事実も、第1話からのすべての出来事が「あの日」に収束していくという絶望的なまでの完成度を誇っています。
私たちが今、読み直すべき理由
完結した今だからこそ、第1話から読み返してみてください。
- カルライーター(ダイナ巨人)がエレンを無視して母親を狙った理由
- グリシャがエレンに注射を打つ時の震える手
- ミカサの頭痛の正体
これらすべてに答えが出た状態で読むと、初読時とは比較にならないほどの感情が押し寄せてくるはずです。
まとめ:諫山創という天才の仕事
『進撃の巨人』は、単なるバトル漫画の枠を超え、歴史、差別、自由、宿命といった重厚なテーマを描き切りました。その骨組みを支えていたのが、今回紹介したような緻密な伏線です。
伏線回収とは、読者への信頼でもあります。「ここまで描けば、後で気づいてくれるだろう」という作者の意図を、私たちは10年以上かけて受け取ってきました。
もし、まだ一度しか作品を体験していないのであれば、ぜひ「伏線」を意識して二周目の旅に出てみてください。そこには、二千年という長い時間をかけた、あまりにも美しく残酷な世界が広がっています。

